堀越二郎の名言4選(声:庵野秀明)
❶ 僕は美しい飛行機を作りたい
カプローニの夢の王国から目覚めた二郎は、母に宣言をしている。
「飛行機の設計家になります」と。
そして、上記の言葉を続けている。
その後は、どっぷりと大学も就職先も飛行機一筋である。
しかし、二郎も人の子、人生、山あり谷ありなんだよね……。
❷ これではだめだよ 僕の考えたのと同じだもの
二郎が同僚の本庄に、飛行機の取り付け金具について意見を聞かせてくれと言っている場面。
二郎が「どう思う」と尋ねると、本庄は「堅実な設計だな」と。
すると「これではだめだよ。僕の考えたのと同じだもの」
すかさず本庄は、「そりゃまずいや」と。
まだ、取り付け金具も二郎も成長をしていないということか。
❸ 風が立つ 生きようと試みなければならない
同じ汽車に乗り合わせた二郎と菜穂子は、風で飛ばされた二郎の帽子を隣の車両にいた菜穂子がキャッチ。
二郎は思わず「ナイスプレイ ありがとう」と、お礼を言っている。
すると菜穂子は、フランス語で「風が立つ」と言ったのだ。
すかさず二郎も、「生きようと試みなければならない」とフランス語で返答。
そして別れた二郎は、一人デッキで上記の言葉をくちずさんでいる。
さらに、本作のキャッチコピー「生きねば。」に関連してか、良寛の書『天上大風』が映画の中でさりげなく飾られているよね。
『風立ちぬ』のプロダクションノートによると「地上に風が吹いていないように思えても天の上には大きな風(御仏の慈悲)が吹き、見守ってくれている」とある。
つまり、この風は楽を与える慈と苦を除く悲であることから、やはり「生きねば。」なんだね。
❹ 僕らは今 一日一日をとても大切に生きているんだよ
医者の卵である二郎の妹・加代が、涙ながらに訴えた「山の病院に戻るのは無理なの?」に対しての返答。
菜穂子の死が目前まで近づいていると、二郎も菜穂子本人も感じている。
加代も上記の言葉で理解したんだね。
無言で悲しみをこらえていた。
昭和初期の時代では、難病だった結核。
いつ逝っても不思議でない菜穂子は、飛行機が完成するまではと、命を削ってまで二郎に尽くしていた。
二郎も一日でも早く完成させるために、家にまで仕事を持ち込んでいる。
菜穂子のためでもあった。
美しい!
里見菜穂子の名言6選(声:瀧本美織)
❶ あなたは 少しもお変わりになっていませんね あの時のまま
地震の時に出会った二郎のこと。
当時、少女だった菜穂子とお手伝いさんのお絹は、二郎が王子様だった。
突然の大地震で誰もが逃げ惑うなか、二郎は「どうしました?」と困っている二人に声をかけていたのだ。
そして、骨折をしたお絹を助けている。
それから数年後、避暑地で再会した二郎は、見間違えるほど成長をした菜穂子に上記の言葉をかけられたんだ。
二郎が成長していないんではなく、あの時の優しいままだったんだよね。
❷ 二郎さんは お絹と私の王子様だったの
地震で我先に逃げるのを横目に、お絹の骨折で身動きできない二人は、「どうしました?」と助け舟を出してくれた二郎が、白馬に乗った王子様に見えたという。
確かに、他人を気遣う優しさが表れている。
❸ 生きているって 素敵ですね
二郎と雨上がりの虹を見た時の名言。
結核の菜穂子は虹を見て「生きているって 素敵ですね」と言っているが、虹だけでなく二郎に出会えたことなんだろうね。
山田洋次監督の『東京タクシー』でも同じような言いまわしがある。
タクシー運転手の浩二(木村拓哉)が、横浜ベイブリッジを渡りはじめた時、心臓疾患を抱える、すみれ(倍賞美津子)との会話。
「今、生きているからこの景色を見ることができるんです。死ななくて良かったんだ。すみれさんは」
「そうね、あなたにも会えたんだもんね」と。
この時の「あなたにも」は、若くして亡くなった息子が、浩二と重なったのでは。
常に死を感じながら生きている、菜穂子とすみれ……。
さりげない二人の言葉だが、意味深〜い。
美しい、本当に日本映画って美しい。
❹ ナイス キャッチ
二郎が3階にいる菜穂子へ、紙飛行機を飛ばした時のこと。
彼女は紙飛行機をつかんだものの、風で帽子を飛ばされたんだ。
二郎は藪の中までを追いかけ、キャッチ。
それを見た菜穂子は、思わず「ナイス キャッチ」と。
その後二郎は、菜穂子の帽子を頭に載せたんだよね。
これって『紅の豚』のポルコが、終盤の名残り惜しい場面で、流れてきたフィオの帽子を被ったよね。
ちなみに、「帽子はその人のシンボルであると共に、その人の代役を果たす」という(図説 世界シンボル事典)。
つまり、二郎は菜穂子を受け入れた、ということだよね。
ブラボー!
❺ 風が あなたを運んできてくれた時から
二郎が「僕はあなたを愛しています。帽子を受け止めてくれた時から」の発言に対し「私も」と上記の言葉を。
同乗した汽車で、風に飛ばされた二郎の帽子を菜穂子がキャッチした時のことだね。
良きかな……。
❻ 私 治りたいの 二郎さんと いっしょに生きたいの
菜穂子は父に「高原病院に参(マイ)ります」と言い、そして上記を。
今まで家で養生していたが、二郎のためにも生きたいと思う、健気な菜穂子。
美しい!
❼ 仕事をしている 二郎さんを見るのが一番好き
計算尺を片手に、設計図を描いている二郎を見ての言葉。
やはり男は仕事をしてこそのものか!?
菜穂子には、生きる励みになっているよね。
すばらしい!
❽ あなた 生きて……生きて
夢の王国でずっと待ちつづけた菜穂子は、ようやく二郎に上記の言葉を言うことができた。
なのに、菜穂子はあっけなく空へ舞い上がってしまう。
誰にも受け止められることなく。
しかし、二郎だけは菜穂子の魂を受け取っていた。
美しい飛行機・零戦の無残な姿で憔悴(ショウスイ)しきっていた二郎は、菜穂子に会えて「ありがとう、ありがとう」と感謝している。
菜穂子は、敢(ア)えて言わなかった、別れを伝えにきたんだね。
美しい!
本庄の名言1選 (声:西島秀俊)
❶ 俺たちは武器商人じゃない いい飛行機を作りたいだけだ
二郎も「そうだな」と、あいづち。
カプロー二も「飛行機は戦争の道具でも商売の手だてでもないのだ」と二郎に教えている。
そんな二郎と本庄は、戦争に関してはまったくの無頓着。
理想の飛行機を作りたいだけの設計家なのだ。
しかし、現実は諸刃の剣なんだよね。
黒川の名言2選 (声:西村雅彦)
❶ 同期はライバルだ 組むと友情を失うぞ
艦上戦闘機の設計チーフに大抜擢(ダイバッテキ)された二郎が、「スタッフに本庄をもらえませんか」と言った時の返答。
しかし映画を見る限りの二郎は、設計のことにどっぷりと浸かり本庄とも良き仲と感じるが。
友情は、距離を置いてこそ得られるものなのか?
❷ 二郎も人間だったか
特高に追われている二郎は、「一度、下宿に帰らせてください。手紙が来るんです。婚約者の手紙です」と。
すると、仕事一筋の二郎が婚約したのかと驚いた上司の黒川が、上記を。
しかし、菜穂子の父は「男は仕事をしてこそのものだ」と言っていた。
さあーて、あなたはどっち?
黒川夫人の名言1選 (声:大竹しのぶ)
❶ 美しいところだけ 好きな人に見てもらったのね
二郎に対し、菜穂子の力強い覚悟が感じられる場面。
二郎のために病棟を抜け出し、飛行機が完成するまではと命を削ってまで尽くした菜穂子。
そして飛行機が完成した翌朝は、いつもと同じように二郎を見送っている。
そのあと、散歩に行くと黒川の奥さんに言い残し、実は結核病棟に向かっていたのだ。
そんな菜穂子に対し、女性ならではの一言が上記。
菜穂子の覚悟が、力強くもあり美しい、なのに悲しい……。
カプローニの名言6選 (声:野村萬斎)
❶ 飛行機は美しい夢だ 設計家は夢に形を与えるのだ
二郎がカプローニに「近眼でも飛行機の設計はできますか?」と尋ねたのに対し「私は飛行機をつくる人間だ。設計家だ」と。
そして「飛行機は戦争の道具でも、商売の手だてでもないのだ」
さらに、とどめの言葉が上記。
つまり、戦闘機ではなく旅客機をつくるのだ。
❷ まだ 風は吹いているかね 日本の少年よ
二郎は「はい、大風が吹いています」と。
「では、生きねばならぬ」とカプローニ。
上記の言葉は、旅客機の試運転に失敗したあとに放った言葉。
その時の二郎は、震災の影響で大学構内が火の粉で、てんやわんや。
今のカプローニと二郎は困難の向かい風だが、夢に向かっている姿は追い風だね。
❸ 設計で大切なのは センスだ
カプローニの引退飛行に同乗した二郎へのメッセージ。
そして「センスは時代を先駆(サキガ)ける。技術はその後についてくるんだ」と。
二郎の「美しい飛行機をつくりたいんだ」に通じるのでは。
美しい飛行機はセンスある設計があってのこと、だね。
❹ 君は ピラミッドのある世界とピラミッドのない世界 どちらが好きかね
二郎は、直接ピラミッドがある世界が好きとは答えず、「僕は美しい飛行機をつくりたいと思っています」と遠まわしに返答。
そして二郎は、夢を追いかけ美しい零戦を作ったが、多くの犠牲者を生むことに。
ピラミッドのある世界が好きと発言しているカプローニは、飛行機が殺戮(サツリク)と破壊の道具になる宿命を背負っていると理解した上で、幸せを運ぶ旅客機をつくってしまった。
ピラミッドは上下関係で成り立っているが、幸せを運ぶ前進ならば、いいではないか、一人では限界がある。
❺ 創造的人生の持ち時間は10年だ
そして、「芸術家も設計家も同じだ」と引退宣言をしたカプローニが二郎に送った言葉。
創造の仕事は、今までなかったものを初めてつくり出すため、疲労困憊(コンパイ)が想像を絶するはず。
宮崎駿監督は、何度も引退宣言をしている。
「今度は本当です」と、言いながらも復帰。
しかし先輩の高畑勲監督は、「映画監督に引退はない」と助言している。
ファンとしては複雑の心境だが、嬉しい限りである。
ヨッシャー。
❻ 君の10年はどうだったかね 力を尽くしたかね
二郎とカプローニが夢の王国で再会。
そして上記の言葉を。
二郎は「はい、終わりはズタズタでしたが」と。
飛行機の設計に憧れ、ついに完成させたものの、結末は二郎の言葉どおり見るも無惨である。
さらにカプローニは戦闘機について的確に言い当てている。
「征(ユ)きて帰りし者なし。飛行機は美しくも呪われた夢だ。大空はみな呑み込んでしまう」と。
『紅の豚』でも戦闘機が天に舞い上がり「天の川」状態になった場面があった。
二郎も菜穂子も生き方こそ違うが、限られた時間内で美しさを求め儚く散ってしまった。
しかし、カプローニの夢・旅客機は違った。
乗客は、みんな楽しそうに笑っている……そして菜穂子も。
あとがき
美しい映画だった。
健気な菜穂子、二郎の零戦そして重要な箇所で顔をだすSL(蒸気機関車)。
SLが自然豊かな平原や橋の上を規則正しく連なって走る光景は、美しく、力強くもありながら哀愁がただよう。
そして、哀愁と言えば主題歌の『ひこうき雲』は本作にピッタリ。
涙ぐんでしまう。
宮崎駿監督は、今まで自分の作品で泣いたことがなかったが、『風立ちぬ』を観て初めて泣いたという。
「何か重なる部分があったんでしょうね」
美しくもあり悲しい、そして力強い菜穂子……。
シュシュポッポ、シュシュポッポ、ボォ〜、ボォ〜、ボォーー。
それでは、さよならサヨナラ













