「あさごはん食べましたか?
パンとコーヒー。
わたしは何も……。
……やはり日本人は、ごはんと味噌汁でしょう。
あのキラキラと輝いた、ごはんと具だくさんの味噌汁は格別です。
日本独特の四季が育んだ美しい山や海そして田園のおかげですね。
空気が、うまい」
本書は、土井善晴氏が和食・一汁一菜をベースに日本文化を語るという異色の料理本。
一汁一菜とは、ご飯を中心とした汁と菜(おかず)のこと。
とにかく一汁一菜は飽きない。
365日食べても。
2013年12月「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
背景にあるのは、「自然を尊ぶ」という日本人の気質に基づいた、「食」に関する「習わし」です。
和食の特徴
1. 多様で新鮮な食材とその味の尊重
2. 健康的な食生活を支える栄養バランス
3. 自然の美しさや季節の移ろいの表現
(季節の花や葉などで料理に飾り付けをしたりして季節感を楽しむ)
4. 正月など年中行事との密接な関わり
(自然の恵みである「食」を分け合い食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきた)
[参照 : 農林水産省HP]
和食のおいしさは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感をすべて働かせて味わえること。
茶事の料理は、まさに五感を使って極致を味わえます。
ハレ* : 祭りごと(特別の日)
日常の「ケ」の世界でも、四季折々の食材で五感を楽しむことができますね。
ある蕎麦屋で、玉子とじ蕎麦定食を食べたときは、感動ものでした。
見た目の視覚、美味しそう。
蕎麦をすする音、漬け物のシャキシャキと美味しそうな音は、聴覚と触覚を同時に味わえます。
嗅覚は、玉子や蕎麦のいつもの匂い。
群を抜いたのが、一切れの柚子でした。
なんと美しい香りが鼻をついたことか。
味覚はもちろん美味しかったです。
けれど、ハレとケの区別は大切。
日本人が寿司や天ぷらなど食べたいものだけを毎日食べないのは、経済的理由以上に身体に良くないこと知っているから。
ケの日常は、慎ましく一汁一菜が心身ともに良い。
食べることは常に喜びなので、度を越せば体調を崩し気のゆるみにもなります。
MLBの大谷翔平選手は、おにぎり一個のカロリーまで気にしているそうです。
先ほどの五感のひとつ味覚は、素材を生かすことが大切であるといいます。
洗練された美味しさは、灰汁(あく)を抜く、白くする、雑味をなくすが基本。
たとえば、玄米を白米に。
白米は水が澄むまで洗う(雑菌を落とすため)。
魚は水洗い(鱗uroko、鰓era、内蔵、血を除き、水分をふき取る)。
野菜は皮をむく。
これら内臓や皮には、濃いうま味も栄養価がある反面、雑味、雑臭、毒があるのです。
中国やヨーロッパでは、豚の内臓や血を一切無駄にせずソーセージなどに加工していますが。
岡本太郎 著「沖縄文化論ー忘れられた日本」によると、日本人、特に沖縄県人は、穢(けが)れに対し異常に敏感とのこと。
浄*(じょう)、不浄の信仰のため。
浄* : きよらかなこと
食文化は、気候風土とともに大自然を畏怖(いふ)し、神様を感じながら生まれたもの。
和食に関するイメージ
<ポジティブ>
1. 健康的
2. 栄養バランスがよい
3. 野菜がたくさんとれる
<ネガティブ>
1. 手間がかかる、面倒
2. 塩分が高くなりがち
3. 地味、茶色
[ 2017年 農林水産省 :
約1000名の子育て世代に対するアンケート ]
一汁一菜は「手間がかかる、面倒」を解決するためにも理にかなっています。
一汁一菜とは、先に述べたようにご飯を中心とした汁(味噌汁)と菜(おかず)をそれぞれ一品あわせた型のこと。
・ご飯は身体や頭を働かせるエネルギー源(炭水化物)
・汁は発酵食品の味噌で味つけ。具は魚、豆腐、野菜、海藻など。
・菜は漬物や梅干し、佃煮など。
このように基本スタイルを持てば、暮らしにリズムが生まれます。
手間はさほどかかりません。
余裕のあるときには、季節のおかずを一品増やすのも良いでしょう。
「慎ましい暮らしは大事の備え」
宮崎駿監督の「もののけ姫」は自然と人間の共存が最大のテーマでした。
それでは、さよならサヨナラ。
追伸
佐藤卓氏がデザインしたという表紙、いいですね。素朴で落ちつきます。ご飯と菜そして味噌を、3色で表現しているんですね。土の上で野菜が飛び跳ねているようにも見えます。