昔むかし山梨の大月では、橋脚もかけられないほどの渓谷で、多数の猿が対岸へ連なっていたという。
今は、日本三奇矯のひとつ「猿橋」が、市民のかけ橋となり大活躍である。
ちなみに広重の『甲陽猿橋図』は、この橋がモデル。
「猿橋」
三重・伊勢近郊で、備長炭の炭焼き職人を演じる絋(稲垣吾郎)と、海外赴任の自衛隊を辞め故郷に帰ってきた瑛介(長谷川博己)そして地元で中古車販売店を経営している光彦(渋川清彦)は、8年ぶりに再会した。
3人は、小学、中学生と同級生であり人生半ばの39歳。
絋は中学3年生の息子・明(杉田雷麟)と妻・初乃(池脇千鶴)の3人暮らし。
瑛介は離婚した妻と9歳の娘を北海道に残し独身。
光彦は、おじいちゃん、おばあちゃん、両親、そして姉の大家族で独身、保護司もしている。
そんな3人が独自の世界を持ちながら、本来人間が持っているであろう思いやりや気づかいをちりばめ、折り返し地点を通過する人情映画である。
監督はデビュー作『どついたるねん』や『一度も撃っていません』の阪本順治。
別に、かけ橋役は人間でなくても、共通の話題や食事だったり犬など動物でも良い。
映画の中では、うなぎ屋の料理人が炭の納品をし終えた絋に、これで缶コーヒーでもと気持ちを渡している場面があった。
絋は光彦に「明のこと関心も興味もないだろう」と指摘され、息子の明にも「分かってないのは父さんだろう」と言われ、さらに妻の初乃のまでが無関心ぶりのひどさか、弁当のご飯に「バカ」と桜でんぶで書かれる始末。
絋は炭焼きのことが手一杯で、周りが見えなかったのだろうか?
絋は一転、瑛介に「明を食事に誘ってくれ」とお願いしている。
瑛介は反抗期の明を食事に誘い、父さんの仕事の大変さや炭焼きを始めた理由を教えていた。
それから、学校でいじめられていた明に、いじめに対する防御や勝ち方なども伝授していたのだ。
明は、父や瑛介など周りの気づかいにより、確実に成長していた。
そんな瑛介が、客に絡まれていた光彦を助けるバトルは凄まじい。
コンバット・ストレス(海外派遣の自衛官は戦争だけでなく軍事作戦や演習で強いストレスに晒される。症状は攻撃行動、不安、無感動、自己嫌悪など。自殺に追いやられる人も)の症状だったのだ。
2022サッカーワールドカップで、お馴染みとなったコスタリカ。
日本が0対1と惜しくも勝てなかった相手コスタリカは、サッカーだけでなく学ぶべきことがありそうだ。
戦後、両国は平和憲法を公布。
その後どうなったかというと、日本は軍拡。
かたやコスタリカは軍事費ゼロ、軍隊を保持しない非武装。
従来の軍事費は、全て教育、環境保全、医療にシフト。
1987年には、ノーベル平和賞を時の大統領アリアスが受賞している。
アリアス大統領は、グアテマラのエスキプラスで行われた中米*和平交渉(エスキプラス合意)をまとめた牽引者である。
これによりエルサルバトルとニカラグアの内戦は停戦。
* 中米参加国はグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバトル、ニカラグア、コスタリカの5ヶ国
国連機関の持続可能開発ソリューションネットワークが発表している2022年世界幸福度ランキングでは、コスタリカ が23位と前年16位から順位を下げているものの、日本は、54位と先進国中最下位。
ちなみに、1位はフィンランド。
絋は、翌日からいなくなった瑛介を1ヶ月以上も探しつづけようやく見つけた。
漁港の漁船の上だった。
自衛隊を辞め、帰郷した時から瑛介に聞かされていた「世界を知らない」という言葉。
絋が「こっちだって世界なんだよ」と船の上の瑛介に叫んだ瞬間、分かったんだと思う。
自分の世界が。
瑛介は「海の上が一番落ち着くんだ」と、背中を見せ帰りかけた絋を呼び止め言ったのだ。
絋の家族は妻役の初乃が光った。
初乃は、絋が炭の売り込みで失敗した会社の支配人に、営業し成功させたのだ。
「備長炭とステーキは相思相愛の仲で、恋仲に落ちたかのような、許されない愛ほど燃えます」と、まくし立てている。(炭はガスと違い、遠赤外線効果により食材の表面をカラッと焼き上げ中ジュージューと、ほどよく水分を保つことができる)
絋には届かなかったけれど。
絋が亡くなり、みんな自分の世界に戻った。
瑛介は北海道に戻ると思う。
電話で「薬は飲んでいるの、今なにしているの」と娘が、しきりに心配していた。
娘が橋渡しをしてくれるはず。
瑛介は絋に感謝していた「ありがとう」と。
明は男になった。
父さんの「かけ橋」を渡っていたのだ。
母さんに、さんざん「根性なし」と言われた明は、写真立ての父さんが見守る窯の前で、ボクサーを目指しサンドバッグ打ちをしていた。
明の新たな世界が始まったのだ。
「バァン、バァン、バン、バン、バン、バン、バァン」
それでは、さよならサヨナラ
追伸
『半世界』のDVDは、オーディオコメンタリーのおまけがついています。
稲垣吾郎と阪本順治監督が実況放送みたいに映画を見ながら解説をしています。
映画だけでなく、御二方の人柄も垣間見られ嬉しいかぎりです。
2019年第93回キネマ旬報ベスト・テン
◻︎日本映画ベスト・テン第2位
◻︎読者選出日本映画ベスト・テン第1位
◻︎助演女優賞(池脇千鶴)
◻︎脚本賞(阪本順治)オリジナル脚本
監督 :阪本順治
脚本 :阪本順治
出演者 :高村絋(稲垣吾郎)/沖山瑛介(長谷川博己)/岩井光彦(渋川清彦)/高村初乃(池脇千鶴)/高村明(杉田雷麟)/岩井為夫(石橋蓮司)/大谷吉晴(小野武彦)/岩井麻里(竹内都子)
公開 :2019年2月15日
上映時間:119分