主人公の未名子(みなこ)は、沖縄の民俗学を研究している順(より)さんと出会い、順さんが管理している資料館を手伝うことに。
未名子は、中学から始めた手伝いを高校卒業してからも続けていた。
そして収入を得ようと、オンラインで世界の見知らぬ人たちにクイズを出題するという奇妙な仕事に就いたのだ。
そんな暮らしをしていた、ある台風の日、家の庭には何と宮古馬が……。
この作品を読みはじめて最初に感じたことは、映像が浮かび上がってきたということ。
首里をはじめ周辺の景色が、読んでいるだけなのに。
最後の「かすかに笑った」は、映画そのもの。
それから、沖縄の歴史を回想させる描写や地名をやんわりと書き記している。
「そこまで言わせないでね」と。
未名子の手伝う私設資料館は、近所の住人にはゴミであり、あやしい館に見えるかもしれない。
公設の資料館には敵わないかもしれない。
2019年10月31日、首里城火災のニュース、ただただ呆然。
未名子曰く
「そんなことは無いほうがいい、今まで自分の人生のうち結構な時間をかけて記録した情報、つまり自分の宝物が、ずっと役に立たずに、世界の果てのいくつかの場所でじっとしたまま、古びて劣化し、消え去ってしまうほうが、きっとずっとすばらしいことに決まっている」
ちなみに、国内の出版社及び官公庁は、図書を出版するたびに国立国会図書館へ所定部数、納本している。
資料の大切さは、他にも記されている。
「首里周辺の建物の多くは戦後になってから昔風に新しく作られたものばかりだ。こんなんだった、あんなんだった、という焼け残った細切れな記録に、生き残った人々のおぼろげな記憶を交えて作られた小ぎれいな城と周囲の建物群は、いま、それでもこの土地の象徴としてきっぱり存在している」
奇妙の仕事の正式名は「孤独な業務従業者への定期的な通信による精神的ケアと知性の共有」
彼女はオンラインの仕事を辞める時、顔なじみになった3人に資料館のデータを送っていた。
消え去ってしまうのが本当は嫌だったのでは?
未名子はこの奇妙な仕事を選んだ理由が、採用担当のカンベ主任の態度が誠実だったからだという。
しかし、彼女は選んだつもりが選ばれていたのだ。
順さん、カンベ主任、クイズの解答者たち、そして馬のヒコーキからも。
彼女が誠実だったから。
資料も、書きかえ削除のない生データが大切なのだ。
生馬の目を抜くこの世の中で、誠実な人ほど行きづらいかもしれない。
けれど見る人が見れば、玉石混淆の中でも分かるはず。
最後に問題、次の足し算の合計は?
「5+8+3+7+0+1+4+11= 」
それでは、さよならサヨナラ。
オキナワケン
ゴーヤミナオイシイー=サンキュウ