『風立ちぬ』から10年、ついに新作公開。
わくわくウキウキしながら観た感想は、「うーむ」と素直に面白いと言えない自分がいる、難解。
その後、気になるところがあり2回、3回と観つづけると、映像を追いかけるのが精一杯の1回目とは違い、どんどん面白くなり結局5回観てしまった。
これぞ宮﨑駿マジックか。
戦時中、病院の火事で母(久子)を失った主人公の牧眞人(マキ マヒト)は、父と一緒に母の妹が住む田舎へ。
ところが妹の夏子は、なんと父の再婚相手だったのだ。
眞人の継母である。
お腹にはすでに子供も。

さらに驚くことは、夏子の屋敷に着くなり、意味深なアオサギが目の前に現れたのだ。
眞人の人生を大きく変えるサギとはいざ知らず。
アオサギは、下の世界からの使者だったのだ。
はたして眞人の運命は……。
本作品は眞人の悪意ある行動、そして下の世界の経験が重要なポイントである。
そんな眞人は初登校の帰り道、少年たちからいじめを受け、一人とぼとぼと……。
何を思ったか、突然眞人は道端の石を拾い、側頭部に「ガツーン」と一撃したのだ。
流血である。
家では、もう大慌て、継母の夏子、父親のショウイチ、女中のおばばたちが。
頭の傷は、いじめの結果だと思う家族や学校の先生たちは同情するかもしれないが、真実を知る少年たちは、眞人のことを相手にしないはず。
家では父の存在が大きくいつも2番手。
もしくは、お腹の赤ちゃんがいたので3番手だったと思う。
そこで悪意の一撃というわけ。
そんな眞人は、悪意の行動プラス嘘を父に言っている。
「ただ転んだだけ」と。
そして眞人は、生と死が混在する下の世界へ。
ところが、下の世界でいろんな経験をした眞人は、何もなかったかのように元の生活に戻るんだよね。
どこかで観たような……。
ところで、下の世界はどうなのかというと、眞人の大叔父が一人で牛耳っていたのだ。
悪意のある石の積み木を完成させることで世界を保ち、失敗したら滅亡。
風貌はドイツ生まれの理論物理学社アインシュタインにそっくりである。
1939年、アメリカの大統領ルーズベルトに原子爆弾の開発を提案。
世界をボタンひとつでコントロール。

声優は火野正平が担当。
火野正平の声って、こんなにも重厚感があってカッコいいのかと感心してしまった。
女性にモテるのは、顔ではなく声だったのかも。
大叔父は、眞人を後継者にしたかったんだよね。
しかし、眞人はキッパリと断った。
眞人は、下での経験が難なく上の世界に行くと決断させたのでは。
悪意の行為を経験している眞人は、大叔父の悪意を見抜いていたのだろう。
恐ろしいことに、下の石塔では人間やゾウまで食べるインコでパンク状態なのだ。

また、悲しみに打ち沈んでいるペリカンは、人間になろうとするワラワラを食べざるを得なかったのだ、生きるために。

まさに地獄の世界なのだ。
下の世界に住む鳥たちは、眞人と同じように石塔のある下の世界がいかに地獄か、木のある世界がいかに素晴らしいかを感じたはず。

もしかしたら夏子も感じていたのだろうか。
夏子は姉の久子に下の世界のことを聞いていたのでは。
眞人を後継者にしようとしていたことも。
そして上の世界に行くことのできる秘密(132)のドアまで知っていた
夏子が石塔の産屋に行ったのは、眞人を守るためだったのでは。
眞人が大叔父の後継者になることを防ぐために。
夏子が男の子を産んだら後継者になりうる。
血の繋がりで。
夏子は姉に対し、側頭部に傷つけた眞人をどのように償おうかと思ったのでは?
石塔の中にある産屋に行った眞人は、夏子から「あんたなんか大嫌い帰りなさい」と。
眞人が上の世界で頭に傷つけ悪意の嘘を言ったのとは反対で、相手の利益になる嘘なんだよ。
自己犠牲もいとわず
結局眞人は、下の世界で母の少女時代のヒミや若き日のキリコと出会い、友情を知ることに。
アオサギとは、上の世界での嫌悪感から、これまた友情へと変化。

友情への切符は、自己犠牲を覚悟の上で相手を助ける姿が共通だった。
また、信頼も築いている。
宮﨑駿監督も読んだという吉野源三郎 著「君たちはどう生きるか」の主人公コペルは、「地動説」を主張したポーランドの天文学者コペルニクスの名から取ったあだ名。
地球は太陽の周りを公転し、地球が中心でないということ。
眞人も自分中心の考えではなく、相手のことを思いやる人間関係へ、そして友達の輪を。
悪意の行為は間違いだと。
マコトノヒト眞人は友達を作ると宣言。
眞人、行くぞー。
それでは、さよならサヨナラ。