千年先の日本、そして地球は。
誰も分からない。
主人公のナウシカは、植物や動物を愛する心やさしき少女。
そして誰からも愛される風の谷のリーダーなのだ。
グライダーのメーヴェをあやつる姿は、まるで風に乗る鳥のよう。
かわいいキツネリス・テトと。
そんな平和な風の谷に、トルメキア帝国の船(ヒコウキ)が墜落したのだ。
やっかいな荷物とともに。
世界を火の海と化した兵器・巨神兵を積んでである。
さらに、船には腐海*(フカイ)に住む蟲(ムシ)たちが、びっしりと。
はたして……風の谷は。
監督は『もののけ姫』や『風立ちぬ』そして『君たちはどう生きるか』の宮崎駿。
腐海*
瘴気(ショウキ)という有毒な菌を持つ植物が、生存する森のこと
本作は、大ババの存在が重要。
難解な「風の谷ナウシカ」を要所ようしょで解説している。
人間同士の勢力争いにより、人間の死は勿論のこと、他にも村や森に住む動物たち、そして木々までも巻き込んでしまった。
動物たちは森を守り、森は水や空気を浄化し、そして水と風は100年かけて森を育てていたのに。
そんな自然を環境破壊が腐海を生んでしまったのだ。
腐海では防毒マスクが必需品であり、マスクをしないと肺がおかされ死に至ってしまう。
それは、瘴気で病んでいる父を助けようと地下でこっそりと菌を育てていたんだ。
すると水と土が汚染されていない場所では、有毒な菌が出ないと分かったんだよね。
ナウシカが地下で育てている腐海の植物は、水を地下500メルテ(1メルテ=1メートル)から風車でくみ上げ、土も同じ井戸の底ものを使用。
結果、有毒の菌は出なかった、ということ。
ナウシカとアスベルが、偶然腐海の底に落ちたときも、なぜかマスクなしで生活できる空間だった。
つまり腐海の底は、汚染された空気を木と土によって浄化していたということなんだ。
有毒の菌は栄養素のない、きれいな場所では増殖しないということ。
ところがコロナウィルスは、人間を介して全世界にひろまった。
ウィルスは菌のように単独では増殖できないけれど、人間や動物を介して増殖をするんだよね。
小松左京著『復活の日』は、ウィルスにより、南極大陸の人だけしか助からないという悲惨な結末。
これから千年先の世界は、どうなるのだろうか。
今でこそコロナウィルスは治りつつあるが、人間や動物が生存する限り、新型ウィルスは発生することだろう。
宮崎駿監督いわく
実は『ナウシカ』をつくる大きなきっかけになったといまにして思うことが一つあるんです。水俣湾が水銀で汚染されて死の海になった。つまり人間にとって死の海になって、漁をやめてしまった。その結果、数年たったら、水俣湾には日本のほかの海では見られないほど魚の群れがやってきて、岩にはカキがいっぱいついた。これは僕にとっては、背筋が寒くなるような感動だったんです。人間以外の生き物というものは、ものすごくけなげなんです。
『出発点』宮崎駿 著 徳間書店 p342
いつの時代も人間は、勢力争いに躍起(ヤッキ)になり、環境破壊をするんだよね。
「あなただって井戸の水を飲むでしょう?
その水を誰が綺麗にしてくれていると思うの?
湖も川も人間が毒水にしてしまったのを腐海の木々が綺麗にしているのよ」
井戸の水は、森林の落ち葉によって作られた森林土壌(土の表面、フカフカの部分)を通ることが重要。
土壌中のミネラル成分が美味しい水を作りだす。
さらに風の谷は、森林が空気中の二酸化炭素(CO2)を葉から吸収し、いらない酸素(O2)を空気中に吐き出している。
人間の呼吸は反対で、森林が吐き出した酸素を吸って二酸化炭素を空気中に出している。
宮﨑監督は舞台を室町時代と千年先の未来という時代背景を変えてでも主張したかったのだろうか。
自然と人間の共生。
是枝裕和監督の『怪物』のラストは、まさに台風がとおりすぎ、少年二人が希望に向かって走り出したシーンだった。
ナウシカは、王蟲(オウム)の子供が死の湖に入るのを阻止し和解した。
子供の目は赤*から青*に、ナウシカの服も赤から青に。
その後、王蟲の大群の目も赤から青に変化。
瀕死の状態になったナウシカは、和解した王蟲の触手により完全復活である。
ナウシカが王蟲に寄り添ったからできたこと。
誰も成し遂げなかったことをナウシカはやり遂げたのだ。
「ナウシカの心やさしき愛が奇跡を呼んだのさ!」
・赤*は怒りの色であり、戦闘と革命の意味を持つ
・国旗の約75%で使用
(日本の赤は、「日出ずる国」の朝日を意味する)
・青*は平和を求める色
・国連の旗に用いられ、世界地図をオリーブの枝葉で囲んだ図柄
(青地に白抜きのデザイン)
・緑*は成長や再生のイメージを持つ
(木の新芽は緑色)
参照:色の辞典 新井美樹 著 雷鳥社
アッ、メーヴェ。
風だ!
風が戻ってきた。
それでは、さよならサヨナラ。