怪物だーれだ。
あなたでしょ。
なぜ?
新規参入者だから。
子ども同士のいじめが意外な展開に。
5年2組に赴任して、まだ日の浅い保利(永山瑛太)先生は、児童の湊(黒川想矢)をなぜか、いじめたことになったのだ。
校長の伏見(田中裕子)は、保利がいじめていないことを分かっていながら、学校を守るために、加害者にした。
どういうわけか、児童たちも保利先生を悪者にしたのだ。
監督は『万引き家族』や『ベイビー・ブローカー』の是枝裕和。
脚本は第76回カンヌ国際映画祭でカンヌ脚本賞を受賞した坂本裕二。
音楽は坂本龍一。
怪物あらわれる!
麦野早織(安藤サクラ)、そして5年2組担任の保利先生だ。
学校は極度の隠蔽体質だった。
校長の伏見以下、教頭、教員と何か困ったときには嘘を言う。
児童たちも。
そこに、アポもとらずに学校に現れたのが早織(湊の母)だ。
早織は湊の様子がおかしいので尋ねると、保利先生が「お前の脳は、豚の脳に入れ替えられたんだよ、化け物」と。
早織は学校で説明すると、校長以下ただ謝りつづけるだけ。
事実関係は、部下が作ったマニュアルを見ながら校長が説明。
横で聞いている保利は、打ち合わせどおり謝るだけ。
本当は「そんなこと言っていない」と、説明したかったはず。
5年2組に着任した時の保利は、意気軒昂だった。
子供たちは、保利先生のことを優しい先生だと思っている。
なのに悪者にするのだ。
結局、保利は学校を辞めることに。
児童たちは学校の先生と同じで、現状のままで良かったのでは。
たとえば湊は、本当のことを言ったら、依里(柊木陽太)だけでなく自分もいじめの対象になると。
なによりも依里と遊べなくなる。
それに、依里は、友達を作ると父(中村獅童)に虐待される。
そんな父が入りびたるガールズバーの建物を、依里は放火したのだ。
依里は素っ気なく「お酒は身体に良くないでしょ」と。
道徳的正当化*
本来は非道徳的な行いであっても、価値ある目的に役立つものならば、社会的に受容されはずだという思いからくる正当化のこと
湊が、依里が、お互いに好きという関係を知られないよう、保利を悪者にした。
校長が、保利が、学校を守るために嘘をいう。
藤井道人監督の「ヴィレッジ」も、現代社会の問題を描いていた。
ワーキングプアの若者が闇の世界に。
ごみ処理場での不法投棄問題だった。
村長が現状を維持するために、不法投棄を隠しつづける隠蔽体質。
ところが一度、本人の中で正当化されると、社会から容認されていないものでも許す口実にしてしまう。
繰り返すことに。
田村景子著『希望の怪物』によると
「怪物とは、既存の日常、既存のあたりまえから外れた、驚くべきことやものであり、その存在によってあたりまえの日常を揺るがし、あたりまえの日常に破滅的な危機が迫るのを知らせる異様な「警告者」である」という。
また、絶望を希望に変える最後の方法が「怪物とともに変わる」ことだともいう。
保利は怪物として5年2組に赴任したが、現状維持の隠蔽体質に飲み込まれた。
ところが、保利は湊と依里の作文によって覚醒したのだ。
保利は湊が依里をいじめていると思っていたが、誤解であって仲良しそのもの。
湊と依里は、鏡文字と横文字の暗号でメッセージをかわしていた。
いよいよクライマックスに、暴風雨という形を変えた、どでかいモンスターが現れる。
湊と依里を希望の怪物に変身させたのだ。
坂本龍一の音楽にのせて2人は、今まで見たことのない未来へと走り出した。
また、覚醒した保利も早織とともに希望の共育*を行なうことだろう。
共育*
教師や保護者だけでなく、子どもと関わるすべての人たちが協同して行い、成長すること。
それでは、さよならサヨナラ。
追伸
湊と依里は、風により怪物に変身したが、スタジオジブリの宮崎駿監督も風をキーポイントにしている作品がありますね。
『風立ちぬ』や『風の谷のナウシカ』は勿論のこと。
『となりのトトロ』では、メイとサツキがトトロと空を飛んでいるときに、サツキが「メイ、わたしたち風になってる」と名言を。